【すべり込みセーフの準備段階】
憧れの砂丘 |
ずっと前からアフリカのラリーに出たかった。走ってみたかった。想像も出来ない未知のアフリカ砂丘を、果たして自分が越えられるのかどうか試してみたいと思っていた。そんな遠い「いつか…」が近くになるのは、ほんの些細なきっかけだったりする。
今年のパリダカのコースで、私達が参加するアシスタンス部門にも「砂丘越えのステージ」が設けられていた。しかも時間帯は何も見えない真っ暗な夜。「夜の砂堀大会が楽しめるよ」と脅かされていた通り、本当にあちらこちらで砂堀をしていた。夜の砂丘地帯というのはまるで「月の表面」のようで、ライトに映る白っぽい砂と闇が織り成す幻想的な世界。そんな中、手際よくルートを指示してくれた同乗者の「チームAPIO」メカニック三栖さんのおかげで、ドキドキしながらもスタックすることなく、4〜5時間の砂丘越えは無事にクリアーすることができた。やった!できた!しかもおもしろ〜い!。「出たい」に火が付いた瞬間だった。
しかし私は大人である。「行きたい」のと「行ける」の違いが分かる大人である。「お金かかるし、クルマもいるし、英語分かんないし、フランス人のラリーってムズカシイし」それがあと一歩を踏み出せない一番大きな理由だった。
だけどそんな大人に変化があった。「カッコ悪くて、いいんじゃな〜い!?」周りの目を気にしない無心な子供に戻ったのか、それとも単なるオバサンの開き直りなのか、いつの間にか自分の中の変化が、「いつか」を「今」に変えてくれた。
メカニックなし、アシスタンスなし、スペアーパーツも消耗品だけのナイナイ体制で始まったこのラリー。当然全ての荷物を荷台に積んで走らなくてはならない。出場車両は乗り慣れた大好きなビッグホーンではあったものの、過去3万km走破のラリー戦歴を持った10年選手のクルマときては、いつ、どこが壊れてもおかしくなかった。しかも他に同じ車両が出ていないため、他からの部品の供給も望めない。
これは初めから「競争」という意識から外れることであり、今の時代に逆行していることも分かっていた。そのうえ背負うリスクも高かった。
【いつもの名(迷)コンビ復活】
ライセンス取得済 |
そんな「壊したらオシマイ」のリスクを2人で背負うナビゲーターは、ラリーレイド・モンゴルで過去2回コンビを組んだことのある会社の「ハカセ」こと小石沢彰。
ただ彼には1つ大きな問題があった。それは国際C級ライセンスを持っていないこと。チュニジアラリーはFIA公認競技のため、選手はFIAライセンス(国際C級ライセンス以上)を所持していなければならず、もちろんナビゲーターにも必要なライセンスである。日本を出発するまでの50日間で、国内B、A、国際Cを取得しなければならないのだ。(国内Bはすでに取得済み)
この短期間のライセンス取得への道のりは、かなり険しいものだったようだ。冬であるこの時期にまずレース自体が少なく、その中でレース仕様のレンタル車両を探し出し、予選落ちもあるレースで2回完走をしなくてはならない。サーキットレース未経験のハカセに圧し掛かる「失敗は許されない」プレッシャー。ラリー準備段階のこの時期からすでに過酷な試練は始まっていた。こうして1ヶ月そこそこの超特急スピードで、念願の国際ライセンスの取得を経たハカセは、晴れてチュニジアラリー行きのチケットを手にすることができた。
注)ライセンス取得のご予定の方は、余裕を持ったレーススケジュールを「強く」お勧めします。