ラリー最終日のスタート時間は朝の6時。
朝が遅いモンゴルの、まだ暗闇の中で始まった最終日、昨日僅差ながら四輪トップを取れたことで“クルマも人間もいたって健在”を証明できたことが、ドライバーの私としてはめちゃくちゃ嬉しかった。
と同時に、フロントガラスがない私達の車内はめちゃくちゃ寒かった。改造時に「こんなモンいらない」と菅原に取り外されポイッと捨てられたヒーターが恨めしかった。やっぱりフロントガラスはあったほうがいい!
さて今年の私にはテーマソングがあった。それは映画「トップガン」の曲である。
やさしいやさしい菅原は、いつの間にかカミオンバレーに備え付けていた拡声器から、早朝まだ静かなキャンプ地にその成果を轟かせてくれる。大音量でかかる「トップガン」に、血相を変えた私はカミオンバレーめがけて走ったものである。
そんなことを思い出しながら、まだ薄暗いピストをフォグランプでしっかり照らしながら、今回最後の100kmのSSに臨んだ。太陽が昇りきった頃には、辺り一面緑一色のおとぎ話の世界に入り込んでいた私達は、ハーブの香りを楽しみながら、時の流れを一切感じさせないその空間に、まるで昔にタイムスリップしたようで、普遍的な重みを感じながら走った。
それにしてもモンゴル人はスリリングな道を作る。
目の前に延びる道は、小高い山々の頂上をつなぐために、登って降りて登って降りてを繰り返す。その後は岩石ゴロゴロのロックセクションに挑戦する宿命が待っていて、仕上げは滑って転げ落ちそうな山の斜面を息を止めて這って進むような、そんな絶景・絶叫ピストへと招いてくれた。そして最後の最後まで衝撃的なコースにド・肝を抜かれた選手達は、満足と達成感に満ち溢れた笑顔がとても眩しかった。
クルマは最後までよく頑張ってくれた。
SSのゴールで込み上げてきたモノは熱かった。
こうして私達は感動を胸に、ルートブックが指し示す最終地点ウランバートル市内へとリエゾンを消化していった。そして最後のページの最終コマ地図に近づくにつれて、私は少しずつ滅入っていくのを感じていた。
そしてとうとうゴールがきてしまった。
ゴーグルの中に溜まっていた熱いモノは、いつの間にかラリーが終わってしまう淋しさと、自分の未熟さ無力さへの悔しさに変わっていた。
「あの時もっと気をつけてさえいれば…」
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