■ Facoat RALLY MONGOLIA 2012 参戦記 最終更新日:2012/12/06

 


完全にスタックしたライバル車

Etap2 (泥沼での一勝)

 朝になると天候は回復し、主催者の本部も到着していた。この日はスタート時間を二時間遅らせた上、ルートを一部変更して競技を続行すると発表された。
 二時間遅くなるということは二時間早く日没を迎えることを意味しており、モンゴルを走る上でとても重要な意味をもつ。なにしろモンゴルの夜は月明かり以外何もない。ルートには穴も多く、転落すれば死に直結することにもなりかねない。

 そんな中、自分の初めてのナビゲーターとしてのステージが始まった。やはり緊張する。これまでの会長との付き合いの中で勝負にかける執念や一切妥協しない取り組み方などを嫌というほど見てきているため、一瞬の油断もすることは出来ない。
 しかし、初めてで緊張している自分をよそに、会長はとてもリラックスしたムードで運転している、レース中にも関わらず世間話が絶えず、気を取られて話に夢中になっていると、ミスを犯す。即座に「何やってるんだ!お前はルートブック持ってるんだから距離が来たら方向指示するだけだろ!」と檄が飛ぶ。やはり真剣そのもの。しかし、しばらくするとまた世間話が始まり、また怒られる。そんな繰り返しをしつつレースはライバルである尾上・石原組のジムニーと競り合いを続けながら、RCPと呼ばれる給油ポイントの直前まで到達していた。
 「RCP直前になると尾上さんが勝負をかけて追い越してくる!しっかり後ろをマークしてろよ!」との指示を受けるが、うっかりマークを逃した瞬間、自分の指示ミスが重なり、尾上・石原組に追い越されてしまった…。「しっかりマークしてろって言っただろ!」と怒られ落ち込んだところでRCPへ到着。ここまでで尾上さんに30秒負けたことになる…。
 RCPでは給油を受け、一時間の休憩が義務付けられる。ここで簡単な食事や車の整備をするのだが、落ち込んだ精神状態での一時間はとても長い時間に感じられた


なぜか笑顔の尾上さん

 RCPには尾上・石原組とほぼ同時に入り込んでいたので、スタートは二台同時だった。加速性能の関係で一歩前へ出た我々が乗るゼッケン100番のジムニーは、一歩リードを保ったままレースを進めていた。しかしこの後、コースは降雨のせいか、ルートブックの指示とは大分様子が変わっていたため、自分達は正しいルートを見失っていた。それでも会長の「前だけしっかり見てろ」との指示に従い、しっかりと路面を見ながら概ね正しいと思われる方向へ進んでいた。しかし方向は間違っており、知らず知らずのうちに泥沼の中へ入り込んでいた。思い返してみるとRCPでスタッフがこの後大きな水溜りがあるので、左から迂回してくださいと指示を出していた。
 これがその水溜りらしいが、「どう見ても沼じゃないか!」と全参加者が思ったことだろう。ここまでに大きな水溜りらしき場所を通過していたので、すでに終ったものと安心していたところにこの沼が現れた。
 二台は競り合いながら、この泥沼に導かれるように入り込んで行った。一歩リードしながらほとんどグリップしない泥沼の中を、少しでも固い場所を探しながら進む。会長の必死のドライビングによりもう少しで沼を抜け出しそうなところまでたどり着くも、ここで力尽き痛恨のスタック。

 この時点でライバルの尾上・石原組の車両は視界に無く、すでに別のルートを通り先に行かれたものと覚悟した。早く抜け出して先に行かなければと脱出版を敷き、必死に押すと少し前に進むもののすぐにまた止まってしまう。泥は足首ほどまでの深さがあり、自分の足に重くまとわりつく。そして一歩歩く度にレーシングシューズが脱げそうになる。ジムニーは前進、後進を繰り返し少しずつ前に進み、約20分ほどもがいた頃だろうか、何とか抜けだすことが出来た。
 その時、尾上・石原組のジムニーの姿は完全に視界に無く、この時僕と会長は完全に敗北を覚悟した。
 沼を抜けたあと、そこに道は無く、大きな石がごろごろと転がる大地を進まなければならなかった。途中には降雨により侵食された大きな溝がいくつもあり、なかなか先に進む事が出来ない。
 GPSが示す矢印を目安に進んでいくものの、中々正しいルートに乗せることが出来なかったがやっとの思いでルートを回復し、この日のSSゴールへ到着した。チェックカードにスタンプを受けた後、係りの人に「尾上さんは?」と聞いてみた。すると意外にも「まだ来てないよ」との答えが返ってきた。この言葉に一瞬にして疲れは消え去り、「尾上さんに勝った」という嬉しさや、必死でジムニーを押したことも報われたという思い、会長と勝利を分かち合うことの出来た喜びなどで、全身から喜びが湧き上がり、同時に歓喜の涙がこぼれた。このラリーに関わって以来、二度目の味わいである。その姿を見て会長は笑っていたであろうが、泣いている顔を見られたくなかったので、前だけを見てその日のビバークを目指した。

 ビバークに付くと尾上さんから本部に連絡が入り、泥沼でスタックしていて、100メートルのロープが無いと脱出できないとの連絡があったと聞いた。勝利には喜んだが、状況は深刻で心配だった。雨でも降り出したら二度と脱出できない状況になるからだ。
 我々はビバークを一旦出て、メカニックのアンハーさんと一緒に近くの湖へ行き、泥だらけになったジムニーを洗車した。洗車を終え再びビバークへ戻ると、次の日のステージが降雨の影響により成立できないとしてキャンセルになると発表された。次のステージは同じビバークに戻ってくるループコースなので、このビバークには明日一日滞在、宿泊することとなる。このため点検整備などは次の日へ回すこととし、この日はゆっくり寝ることにした。
 結局尾上さんたちはこの夜ビバークには帰り着かなかった…。

 

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