最終更新日:2008/3/13
 

最後のチャンス

 いよいよ迎えたETAP7。意外にも夜はよく眠れ、万全の体制。
 しかし差は12分半と大きなものです。果たして、逆転することはできるのだろうか。
 SSのスタート前にエルデニズー寺院で記念撮影をしました。スタートからずいぶん台数が減ってしまって、少しさびしい気分です。]

 SSは今日も尾上組が僕らの前でスタート。今日、挽回しないとチャンスがないことは尾上さんも知っているので、全開で走ります。
 僕たちはもちろん全開の全開。速度の差はタイヤに要因があるため、どうしようもできず、この日もアベレージ速度が高いため、おそらく、それまでは引き離されつつあったと思います。

 しかし、スタートから53km地点でそれは起こります。
 なんの変哲もない平らな地面で、少し丘になっているような場所でした。右前方に赤いジムニーがこちらを向いて止まっています。近づくと、窓ガラスはかなりのヒビが入り、ボディーも凹みが目立ちます。転がったのだと一目にわかるほどひどい状態でした。少し速度を緩め、声をかけると、ナビの松田さんがガラスで指を怪我したこと以外、体は平気とのことでした。僕たちは約束どおり、止まらずにその場を去りました。
 実は、ラリーのスタート前に会長と尾上さんはこんな約束を交わしていたのです。
 それはお互いの車が止まっていても、相手が生死にかかわる状態でない以上、助けない。というものです。すごく冷たく感じますが、それがこの「親父たちの熱き戦い」のシビアなところ。しかし、やはり会長は本当に止まらなかったことが心に引っかかったのか、その後、車内で「止まらなかったのは、ちょっと冷たかったかな」などとつぶやいていました。しかし、その後すぐに「あいつは本当にしぶといからなあ、1時間くらいで修理して、走ってくるから、油断できないぞ」と、スピードを少し緩めつつも走り続けました。僕は車載している無線機で主催者に連絡、この時、尾上さんもヘリを呼んでいたようです。
 

決着

 僕らはビバークに到着後、すぐに次の日の準備に取り掛かります。次の日は最終日、ゴールから船積みまでの時間がありません。できる限り、マシンを船積みの状態にします。この日まで、少しでも速度を上げるために、車載品はだんだん減らされ、軽量化をしていました。外された部品や荷物をサポートカーにから出して並べると、こんなにも荷物があったのかと驚くほどでした。その合計はおよそ30kgありました。
 僕が車に荷物の積み込みが終わった頃、約2時間遅れで、尾上ジムニーも無事にビバークへ到着しました。車のボディーはぐしゃぐしゃになり、フロントガラスはバリバリに割れていましたが、大きな怪我もなく帰ってきたものだから、選手やスタッフ全員に拍手で迎えられました。
 そして程なくして、ビールでおめでとう?の乾杯。110kmくらいのスピードで、5〜6回転もしたとのこと。(尾上さんはスクリュー・ロールオーバーと命名しました。)
 見た目はものすごくひどい状態ですが、エンジンや足周りにはダメージは少ないようです。ジムニーの重量の軽いことがその一番の要因でしょうか。ジムニーの頑丈さとタフさに驚いてしまいました。
 しかも尾上さんは転倒後、近くに散らばったものを集めて、外れたリヤの窓ガラスをはめ直し、1時間半ほどで走行を始めたというのだからびっくり。会長のいう「しぶとい」の意味が良くわかりました。
 転倒の原因は、ショックアブソーバーでした。前日に交換した試作品のショックのガス注入部が飛び石で折れてしまい、ガス圧が一気に低下してしまったらしいのです。

 この日の夕食時に尾上さんと話しをしました。12分もの差がついていたのだから、もう少しスピードを落としても良かったんじゃないかと聞くと、「いや、これが勝負だから。」と最後まで、一歩も引かずに勝負をする尾上さんに、ひどく感激しました。
 しかも、「この転倒で、杉ちゃんが一番、楽になったんじゃないか!!?」と怒鳴られてしまいました。まさに、図星を突かれました。後半戦のETAP4とETAP7はタイムを巻き返さなければならないプレッシャーで必死になっていたため、その日の記憶があまりないほどの状況でした。しかも、この日のSS1の後半、村の通過に失敗し、さらにSSゴール目前で、またしてもミスコースと、散々なことになっていたので、最もプレッシャーから開放されたのは自分でした。
 尾上さん、ありがとうございました。
 何はともあれ。これで2時間以上の差が付き、事実上の決着がつきました。残るはETAP8です。
 尾上さんと決着がついたからと言って、油断してはいられません。ミスコースしたり、マシンにトラブルが起きて、コース上でストップすれば、あっという間に追いつかれてしまいます。
 しかも、すぐ後ろには、初日にトラブルで順位を落としていたFJクルーザーの松野さんが15分差に迫っています。ジムニーとFJクルーザーではそのスピード差は圧倒的になものです。
 最後のETAPはSS距離55kmですが、少しの気を抜けません。
         
チーム紹介>>>   
<<<第五章 敵に塩を送られる   |    第六章 決着   |    最終章 ゴールへ>>>    

CONTACT US