最終更新日:2009/2/14
敵に塩を送られる
ETAP4 オリアスタイーバヤンホンゴル
草原を走っていたかと思えば、左手に雪の峰が見え、いつの間にか標高は3000mに達しています。富士山で言うなら7合目くらいでしょうか。
タイム差を埋めるのに必死になり、雪の峰をチラッと見ただけで、少しもったいないなという気持ちになりますが、なによりタイム。
この日、一番問題になったのは「村」の通過でした。
SSの競技中に、毎日いくつかの村の中を通過します。とりわけこの日は4つの村を通過しなければなりませんでした。松田さんも昨年は村の通過で大きくタイムロスしたことがトラウマになっていたそうです。「今年はコツがわかってきたから大丈夫。」と松田さんは言いますが、僕はどうも村の通過が苦手でした。村が近づくたびに緊張します。
なぜここまで村の通過が怖いかというと、村の前後にはその生活のために作られた無数の轍が縦横無尽に走っています。コマ図には大きな轍しか書いてありません。しかも、その間隔は50mや100mで、あっという間に過ぎてしまい、確認のしようがありません。出発前に社長に村の出口の目標物や全体的に向かう方向に注意するようにアドバイスをいただいたのですが、これがなかなかうまくいきませんでした。 村に近づいたり、入ったりした時、なかなか目標が見つけられず、迷ってしまいます。実際、この日も3つ目の村で、村に侵入するピストを見失い、近くにあった入口から進入するも、村の中では進む方向もわからなくなり、最後はGPSの方角を頼りに脱出。ここでのロスタイムがひびき、このETAP4は3分半の差をつけられてしまいました。これで前日のタイムが帳消しになり、総合タイムの差は14分に戻ってしまいました。
このタイム差にはもう一つ原因がありました。どうも尾上さんのジムニーよりスピードが遅いのです。尾上組のジムニーは最高速度120kmくらい。しかし、僕らのジムニーは110kmぐらいと10kmほどの差が出ているのです。ドアやバックドアなどをFRPに交換しているので、こちらの方が軽いはず。 尾上さんの指摘はエンジンオイルとタイヤ。エンジンオイルは尾上さんの使用するAPIOジムニー専用の方が良いかもしれません。が、おそらく一番速度差になっているのはタイヤです。
我々のジムニーの履くタイヤよりも、尾上さんの履くタイヤの方が抵抗が少ないのです。タイヤ特性の差ですが、砂丘や岩場など低速ではこちらのタイヤに分があります。しかし、高速になるとやはり尾上ジムニーの方がスピードに乗ります。また、エア圧も尾上さんたちに比べ、車体やサスペンションへのダメージを考えて低め設定していました。そこで尾上さんにスペシャルなエンジンオイルを分けていただき、エンジンは快調になりました。尾上さんは「敵に塩を送ってしまった」と言っていますが、ラリーの現場では本当にありがたいことです。空気圧の差は大きくスピードに関係しますが、車体へのダメージもあるのでそのままにしました。
そして、この日ついにドライバー席側に取り付けてあるマップホルダーを取り外しました。会長の「もう大丈夫だろう」という一言には信頼を感じ、嬉しさとともに、その責任を感じました。
この日は整備とコマ図の予習で遅くなり、ゲルにはすでに寝る場所がなくなっていました。そこで、あまり気温も低くなかったので、ジムニーの横にマットを敷いて寝ることにしました。満天の夜空。なんとも贅沢です。バイクの整備する音や発電機の音などがたくさんしていましたが、この日がラリー中で一番ぐっすりと眠れたのではないかというほど気持ちよく眠れました。
会長の予言
ETAP6 バヤンホンゴルーハラホリン
予定されていたETAP5のループステージはスケジュールの調整でキャンセルになり、ETAP6となりました。総合タイムの差14分を取り替えそうと僕は必死になっていました。
一つ目のSSのチェックポイントでオフィシャルの人に尾上さんのことを聞きます。「まだ着てないよ!」 我々より1分先にスタートしているので、どうやら尾上さんたちはミスコース。 よし!!心の中でガッツポーズ。
チェックポイントを過ぎ、コマ図とコマ図の間の距離が不意に20kmほど空きました。時間は11時を少し過ぎたくらい。RCPでちょうどお昼ぐらいかな、などと考えていました。会長が突然、「お前、昼めしを食べちゃいなよ」。SS中、しかも走行中に食事をすることにすごく戸惑いました。加えて、あと100kmちょっとでRCP、レストコントロールなので、1時間ストップし なければならないのです。確かに、道はそれほど荒れておらず、車も安定して走っていますが、SS中です。当然「あと100kmちょっとでRCPです。そこで食べましょう。」と反論。
しかし、「ラリーは何があるかわかんないんだ。もし、車が壊れて、RCPで修理することになったら、1時間なんて、あっという間だぞ。」と、まさかこの予言が的中するとは思いませんでした。僕は渋々ランチパックを食べました。
さて、RCPについてみると、先に出て行ったトップのマシンが出て行くタイミングでした。しかし・・・。遠くからみても、その大きさゆえにすぐ見つかるはずの日野レンジャーがいません。後から来た人たちの話では、途中でミスコースしており、オーバーヒートしていたようだ。という情報を耳にしました。まさか、あのレンジャーが壊れるとは思いもしませんでした。そして、会長の言っていた「何があるかわからない」という言葉がまさに現実になりました。本当にラリーは何があるかわからないのです。
急いで、携帯や衛星携帯を使って連絡を取ろうとしましたが、つながりません。おそらく修理しているのでしょう。結局、RCPの1時間の間に携帯がつながることはありませんでした。
川渡り
日野レンジャー組の心配をしながらも、こちらは巻き返しを図るべく、アタックです。SS1のゴールまで残り10kmをきり、残りコマ図も後少し。
・・・三叉が3回続いた時でした。3つ目の三叉が・・・ありません・・・。
ただ単純に距離がおかしいだけなのか、それともミスコースか・・・。
走りながら、会長と相談します。「コマ図がきてません!!」
「ミスコースか?!」「わかりません。」この時、左に平行に走るピストがあり、そちらかもしれないと思い、そちらへ移ったのが失敗。今まで走っていたピストの後方からバイク1台と尾上さんのジムニーが走り去りました。
慌てて戻りましたが、SSのゴールは尾上さんの約1分後。スタート順も尾上さんの1分後にスタートなので、せっかく稼いでいた時間がゼロになってしまいました。
SSゴール目前にしてミスコース。会長の激が飛びます。「車はこんなにがんばってるぞ。がんばって1秒を削っているのに、ミスコースは分単位の時間ロスになる。しっかりしろ。」コマ図どおりに走っていたはずなのですが、コマ図と合っていないときに、何もできない自分に悔しくなりました。 前にいる車を抜いて前に出るということは、同じ性能の車では非常にリスクがあり、容易ではありません。サーキットのように舗装されていないし、道も初めて走る道です。抜こうとする車は前走車の上げる埃で視界が無くなるため、その先の道の状態もわからなくなり、危険な状態になります。それがわかっているので、ここで尾上組に抜かされたのは、非常に悔しかったです。
迎えたSS2。必死に追いつこうとしますが、追いつけずにいました。ゴールまで残りが3kmほどに迫りました。そこは太い道路がせき止められて、右の道路へ迂回しなければならない地点がありました。しかも、迂回して川を渡ります。コマ図を確認した時点で、深そうだったら、瞬時に車を降りて川の中へ確認に行くつもりでいた。実は前のETAPでも川はいくつかありましたが、難なくクリアしていました。さて、今回は・・・。
太い道路を迂回し、右にそれる。と、川の手前にバイク1台と、赤いジムニー。やった!追いついた!ナビの松田さんは車を降りて、なにやら覗き込んで川を調べています。ちょうど夕方で日陰になっていて、川の深さは見た目ではわかりません。瞬時にシートベルトを外し、会長に「降ります!!」と言って、ドアに手を伸ばしました。しかし、会長は「大丈夫だ。焦るな。」と落ち着いて・・・そのまま川に侵入。僕は唖然としてしいました。意外に川は浅く、簡単にクリアできました。そして、順位はそのままSS2をゴール。
僕は、まさか躊躇もなしに、そのまま川へ入るとは思いもしませんでした。会長曰く「ああいう道は地元の人が通っている道だぞ。考えてみろ。地元の人はみんな4輪駆動に乗っているわけじゃない。ふつうの車だって通るんだぞ。」会長の深い読みに感激しました。これで1分挽回できました。
尾上組のジムニーはビバークに着いた時、異音が出ていました。原因はショックアブソーバーです。ショックの取り付け部のゴムが摩擦でほとんどなくなってしまっていました。やはり、タイヤの空気圧の差はここに来ていました。我々のジムニーは、どこも問題ありません。タイヤとサスペンションのみで衝撃を全て吸収しているためです。尾上さんはこれほどまでに激しい走りをしてきたのです。おそらくリスクもかなりなものであると思います。尾上ジムニーはショックを新品に交換。まさかこの交換が翌日とんでもないことになるとは思いもしませんでした。対する我らがジムニーは前の日にもエンジンオイルの交換など、改善策を打ちましたが、さらに尾上ジムニーにプレッシャーをかけるべく、4輪ともタイヤを新品に交換。気合を入れて、ETAP7に挑みます。
結局、日野レンジャーはSS1の250km地点で残念ながら、エンジントラブルでリタイヤになってしまいました。
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