最終更新日:2005/09/25
■スリッパ「モンゴルへ行く」 ゴールの巻
 

ZOUMOD〜ARVEYHEER(8月13日)

朝はいつも冷え込みますが、この日は太陽が昇っても、気温は一向に上がりませんでした。オープンタイプのスリッパは、冷たい空気をもろに受けます。昼になると小雨までパラつき出し、私はジャンパーとカッパを重ね着して、首にはタオルを、足には作業シートを、もうなりふり構っている場合ではありませんでした。体の寒さが応えます。そして今回最も長くキツいイ1日に突入していきました。

途中でZ1(=カミオンバレー、ドライバー:菅原照仁氏)に会いました。他に会う選手もいない私には、貴重な話相手です。しばらく行くと川がありました。先日の雨のせいか、流れも急だし深そうです。スリッパの車高では水没だってあり得るのに、Z1は「これがオンコースだから行きなさい」と言います。行くのをためらっていると通りがかった地元の人が、もっといいところを知っている、と上流側のラインを教えてくれました。確かに先ほどの川幅よりは狭いのですが、渡ってみると思った以上に水流の抵抗を受け、足元から浸水してきた水で、バギーの中は一瞬にしてプールになってしまいました。タダでさえ寒い日に、足から腰までずぶ濡れになってしまった私は、ガタガタ震えが止まりませんでした。

それからの長いピストが続き、いつしかZ1とも離れ、右手の砂丘群も見送って、やがて暗闇の中でポイントとなる1本のラインを見逃してしまい、今宵も途方に暮れてしまいました。真っ暗な中でオンコースを見つける自信もなく、“この先で合流できるピストがあるかもしれない”とか、“遠くに見えるライトの明かりはZ1かもしれない”とか期待するのですが、ことごとく裏切られ、私はますますオンコースから外れていきました。こういう時に限ってGPSのバッテリーも時々切れてしまいます。モタモタしている場合ではなくなり、また今夜も闇のGPS走行を始めるのでした。
夜間走行は、深い森のトンネルをどこまでも潜っているような錯覚に陥ります。昼間の川渡りでずぶ濡れになった寒さが、今夜は気分まで寒々しくさせていました。
1時間ほどGPSで進んだ頃、遠くで光っていたライトがだんだん大きくなって近寄ってきました。今度こそ本当のZ1。良かったぁ、助かったぁ。Z1が神様に見えました。 しかしこの先はまだ180km。「飛ばさなきゃ、スタートに間に合わない」と思いながらも、ずっと満足に寝ていなかった私は、波のように次から次へと睡魔に襲われます。ライトに照らし出された草木の影は、猫や小人に見え出しました。危ないですね。幻覚です。そして朦朧とした時間が過ぎました。
アルベイヘールの町の手前で、Z1も危険を察し、少し休むことにしました。少しのつもりが、気がつくともう朝6時すぎです。スタートは5時と聞いていたので、あわててキャンプ地へ急ぎます。(寒い中、SSのゴールで待っていたオフィシャルの方々、本当にすみません)

遅かった理由:ミスコース、燃料フィルターのつまり、GPSのバッテリー切れ、寝不足
【走行時間:22h31m21s】

■ ARVEYHEER〜(HARHORIN)〜ULAANBAATAR ゴール(8月14日)

着いたキャンプ地はもう片付けの真っ最中でした。もうラリーが行ってしまったのと、濡れたズボンを履き替えられないことが分かると、ガックリ。でもまだゴールが残っています。何とかラリーに復帰しなければなりません。

最初はSS1がキャンセルになった聞いて、それでは何とかSS2からは合流できるように、と舗装路でHARHORINの町に向かったのですが、途中、後ろを走っていたZ1に「フラフラしているからこのまま走るのは危険。舗装路で迂回してウランバートルまで行くように」と言うのです。今日はうって変わって、鬼のようなZ1。「昼間は絶対大丈夫!」と散々抵抗をしたのですが、私のために周りの人を巻き込んでしまうことには言い返せず、泣く泣くSSを断念。H1率いる#121ミニクーパーらと一緒に、パレード開始会場に向かったのでありました。

私は当然リタイヤだと諦めていたのですが、レギュレーション的には完走扱いになったようで、しかも『永山竜叶賞』という貴重な賞までいただいてしまいました。
最後のSSが走れなかったことは今でも心残りですが、本来の競争からすでに外れている時点で、これが今回の結果だったと思えば、納得もいきます。

今回は1人乗りの一人旅。長い長い私の『北京ウランバートルラリー』でした。
もともとスリッパはラリー向きではないことは百も承知で、あえて選んだワケですから、スリッパこそいい迷惑だったに違いありません。私にとって特別の存在であったこのスリッパで、希少かつ貴重な体験をすることができ、生涯忘れられないラリーになりました。

このラリーはモンゴルの大自然の素晴らしさはもちろんのこと、日本語で会話できるのでそういった面でのストレスはなく、リラックスしてラリーを楽しむことができ、またスリッパのようなオリジナリティな車両でも参加可能というところも、このラリーの大きな魅力です。

このように皆さんに支えられながら、スリッパも私も、元気に戻って参りました。
車両製作からラリー期間中まで、お世話になった皆様へ、
そしてスリッパで素晴らしい経験をさせてくれたこの大会へ、ありがとうございました。

#102 スリッパ 近藤聡子 

【ご協賛各社およびご協力者】
株式会社4WPWジャパン
株式会社アライヘルメット
株式会社ベータチタニウム
山本光学株式会社
・ファクトリーハナワ
・JRMスタッフ

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