前半][後半][大会概要
 
 ラリーも後半戦に突入、今大会最短距離210kmのループの5日目、自然と「スプリント(短距離走)走りの日」を意識した。
 しかし考えることはみんな一緒で、みんな飛ばす、飛ばす。
 スタート直後からこまめに続くデコボコギャップに思うようにスピードが上がらず、一度上がった速度を落としたくない一心で、結果的に車の動きを激しくしてしまう。
 ルートも3分の2ほど消化した頃、リアの跳ね方が明かに乱れてきた。ビヨーン、ビヨーンと納まることなく不自然な動きに「ショックがぬけた」と慌てて小石沢ナビに下回りを覗いてもらう。ショック自体はぬけてはいなかったが、取付けブラケットの上側の溶接が剥がれてしまい、下側のみで固定されているショックはすでに遊んでいた。当然役に立たない。しかし幸いにもこの車両はダブルショック仕様として作られたために、もう1箇所取り付け個所が残っていた。
 まだキャンプ地まで残り30km以上あるために、急いで別の方に取り付けようとしたのだが、当たってしまってなかなか入らない。これ以上は時間の無駄だと、諦めてペースを落として走り出す。思うようにスピードを出せない苛立ちと、時間を費やしてしまった悔しさを「欲を出した自分が悪い」と納得させ、「やはり自然はすべて見ている」と確信しながら、落ち着いた速度で残りを消化して行く。
 それが私達にとって吉と出た。ルートブックに載っていない危険な下りギャップに、ダメージを負ったマシンも多かったそのポイントを、私達は難なくクリアーできたのだった。もしその時ショックが壊れていなかったら、果たして私はそれを見抜けただろうか。

 調子も乗ってきたラリー7日目、この日260kmのループが予定されていたが、ラリーはすべてキャンセルされ、思わぬ休息日となった。原因はこの日向かうはずの村になんと炭疽菌が発生してしまったという情報が入ったからであった。
 突然の休日に休養をとる人、裸で川で遊ぶ人、疲れたマシンを整備する人、レース談義に花を咲かせる人、みんな思い思いの休日を過ごす。私も小石沢ナビも調子が乗っていた分、残念な気持ちも残ったが、川あり、山あり、仲間ありとくれば、今までに味わうことのなかったもう1つのモンゴルを満喫できた貴重な1日となった。
 ちなみに人間いい人達の中にいると、自分もいい人になりたいと思うものである。気持ちのよい人達に囲まれた私は、今更ながら自分もそんな人になりたいと素直に思った。

 四輪6台、二輪72台の総勢78台がスタートを切った今大会、全体の完走率は63%だった。
四輪部門は3台のリタイヤ車を出し、完走率は50%、その中で私達のビッグホーンは四輪部門2位でゴールすることが出来た。
 大会8日間、全行程約3300kmのうちSSタイム47時間余りの結果であるが、なんと驚くことに1位との差は4分20秒ほど。これだけの距離を走って、このタイム差とは悔やまれる面も少なくない。
 しかし果たしてこのタイム差は惜しい結果だったのか、それとも運がよい結果だったのか、全てを見ていた大地にしか分からないように思う。一緒に走っていれば、自分の速さや実力がどの程度のものかくらいよく分かる。この成績は他の車が見まわれた大きな車のトラブルやミスコースが私達にはなかったことに尽きる結果である。

 「今年は自分との闘い」と言い聞かせ、今までになく精神的にも安定し、車に大きなトラブルもなくのびのびと走れたことが、今年の私には最高の喜びだった。昨年レース中盤で車を壊し、歪んでしまった車で走る悲しさ悔しさを味わったからこそ、大事にしたい部分であった。
 今年清々しくゴールできたことに感謝をしている。それもこれも壊れにくく乗りやすい車に仕上げてくれた会社の人達、容赦ない衝撃にも1度も文句も言わず信頼おけるナビゲーターとメカニックに徹してくれた小石沢ナビ、そして諦めず大きな目で見守ってくれた菅原パイロットのおかげに他ならない。


 今大会をもって幕を下ろすこの「ラリーレイドモンゴル」全8回が、私達に与えてくれたものは計り知れない。見える物だけが価値や羨望の対象となり、見えないものに価値を見出し難い今の時代、私はこの大会を経験することにより、初めて楽になれたような気がする。そして改めて自分の存在意味を感じ取れたような気さえする。大自然を前にした自分の愚かな小ささも、星が散らばる宇宙のような大きさも、それは自分の中にあった。
 これからは行き先を指示してくれるルートブックもGPSもない。自分が決めたゴールを信じ、自分で轍を作っていかなければならない。この大会から、このモンゴルから、このすばらしい人達からそのエネルギーを分けてもらえたことに心から感謝をしている。
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