●ドライバー:近藤 聡子 (>>>モータースポーツ経歴)
ドライバーは、車を出来るだけ速く走らせるのが役割だが、ただ速く走らせればよいというものではない。
ナビゲータが指示する方向を見定め走りやすい最良のピストを選ぶ、車にダメージを与えない走りをする、さらに車のほんの小さな挙動さえも五感をフルに活用してそれを感じ取り走る、一日数百Km走るための長時間の集中力、また運転しながらのナビゲータとのコミュニケーションも必要などと、結構忙しく大変なのである。
スタート前、彼女の握るステアリングの前には、紙で目隠しされたメモがあった。そして、2日目の砂丘にはいる直前、目隠しの紙が外されたメモには、砂に対する心構えのようなことが書いてあるのが見えた。彼女にとって、今日その時がどんなに待ち遠しかったのか、そしてどんなに去年この場所で悔しい思いをしたのかがうかがえる。
しかしながら、この砂丘を走るのはその裾のみ。多少は気が抜けたかもしれない。
この砂丘ではゆっくりと走ることが必要とされたが、反対にハイスピードコースでも、どのような状況においても出来るだけ速く確実に車をコントロールし、毎日ゴールへと駆け込んでいく彼女の運転は、横に乗っていても安心することができ、またその車を操るリズムも快く感じることもできた。
国内のオフロードレースでは、排気量660ccのエンジンを搭載する小型バギー(通称:スリッパ)のレースに参戦。去年は、ポールポジションをとったレース史上初の女性となった経験もあり、国内、海外問わず、ドライバーとして大活躍をしている。
●ナビゲータ:小石沢 彰 (>>>モータースポーツ経歴)
ナビゲーターとはルートブックの情報をもとに、進むべき道を判断し、的確にドライバーへ指示を与える頭脳競争者である。ラリーにおいて重要な役割を担うナビゲーター、特にモンゴルは大地の多くが草原地帯であるために、草地特有のピスト(道)形成が、さらにナビーションを難しくさせている。
例えば、草の中の分岐ピストはそこまで行かないと見つからないし、コマ図で指示される穴などの目標物も、数メートル間隔で幾つも出てくるとどれが「それ」なのか迷ってしまう。またどこまでも続いていたはずの何本もの平行ピストから、いつの間に反れていったそのピストこそがオンコースだったり、ルートブックの距離、コマ図、CAP(方角)全ての情報を忠実にチェックしていても、迷う時はやってくる。キツネにつままれたような地形の罠は、挑戦的なナビゲーションを解く面白さでもあるが、それには空から見下ろす鳥のような広い視野や、自然が作り出した地形や展開を読む能力もまた不可欠である。
ラリーはナビゲーションが成績を左右するといっても過言ではない。だからナビゲーターの責任は重大なのである。
そんな重要なナビゲーターを、昨年に引き続き会社の同僚である小石沢彰が務めてくれた。走っている時は彼の声の指示だけが頼りである。ルートブック上の情報はもちろん、前方の状況も確認してくれる彼の声は、ヘルメットのインカムから途切れることなく続いた。よほど喉が乾くと思うのだが、トイレ休憩を気にしてだろうか、ほとんど水分を取っていた記憶がない。キャンプ地に着くとルートブックを工具に代えて、翌日にために点検整備をしてくれた。私と同様、彼は彼なりの課題を果たそうとしていた今年、私達は同志だったように思う。
|